雪舟えま

雪舟えまの短歌で思い出したこと。

泣いているわたしはとくに重いとか 抱いてスクワットをする夫

人生で一度だけお姫様抱っこされたことがある。もう少し詳しく書くと、真夜中に喧嘩して家を出ると泣いて騒いだら、じゃあ今すぐ出ていけよと抱え上げられて玄関に放り投げられたことがある。状況としてはまったくお姫様抱っこではない。

そこでもうやめてとかごめんなさいとか言わずに、あ、出てけって言ったな?自分の言葉に責任を持てよ?と怒り狂いながら彼の手を振り切って荷造りを始める女だ、わたしは。

知り合った頃の恋人はひょろっと痩せてなぜかいつも照れていて、わたしの前でTシャツ姿になることすら恥ずかしがった。

ふたりで暮らし始めて一年と少し、今では半裸で家の中を歩き回っている。一生懸命筋トレして卵を茹でて、食べる?って聞いてくれるから、じゃあひとつ食べると答える。華奢で可愛かったあの頃の恋人はもういない。

そんなことを何となしに友達に話したら、相手をタフにしているのはあなたかもよと言われた。

そうか。そうかもなー。タフにしているのはわたしなのか。

その気付きは別に悲しくもなく嬉しくもない。ただただふたりの生活が今のところ続いているという事実を受け止めて、毎日恋人が元気でいてくれるといいと願いながら、わたしは茹でてもらった卵を食べる。